魔球投手は卒業後に司会者になった。
あちこちのイベントに借り出されてはマイクを持ってトークした。
ある日、昔の仲間が司会者を訪れた。
「どうしても負けられない草野球の試合がある。魔球を投げてくれ」
しかし、司会者は首を縦に振らなかった。「伝説は伝説のままにしておく方が良い」
昔の仲間は、あの魔球はトリックではないかと疑った。そこで、強引に魔球を投げざるを得ない状況を作り出した。
司会者は魔球を投げた。
トリックなどどこにもなかった。
しかし試合には負けた。
とっくに攻略法が編み出されていたからだ。
「くそっ! 誰が魔球のネタバレしたんだ」
すると司会者は答えた。「オレ……、司会のネタに聴衆の前で」
(遠野秋彦・作 ©2013 TOHNO, Akihiko)